稟議書やワークフローの画面で、「承認」と「決裁」が並んでいて迷ったことはありませんか。どちらも「OKを出す」ことですが、誰が・どの段階で出すOKかが違います。この記事では、官公庁や法人の規程での定義をもとに、2つの違いと使い分けを例文で整理します。よく取り違える「決済」との違いもあわせて説明します。
結論:決裁は「最終的に決めること」、承認は「よいと認めること」
| 決裁(けっさい) | 承認(しょうにん) | |
|---|---|---|
| ひとことで | 権限を持つ人が、案を組織の決定として確定させる | 出された案や申し出を、よいと認める |
| 誰がするか | 決裁権者(社長・部長など、規程で決められた人)だけ | 上司、関係部署、会議体など、途中の人もする |
| 何回あるか | 1つの案件に原則1回(最後の1回) | 1つの案件に何回もありうる |
| した後どうなるか | 組織の意思として決まり、実行に移せる | 次の人へ回る(最後の承認が決裁を兼ねることもある) |
| よく使う形 | 決裁が下りる・決裁を仰ぐ・決裁権者 | 承認を得る・承認待ち・承認者 |
ひとことで言えば、承認を重ねていき、最後に権限者が決めるのが決裁です。ただし、どこまでを「承認」、どこからを「決裁」と呼ぶかは、会社や役所の規程(職務権限規程・決裁規程など)で決まります。
「決裁」とは
決裁は、決める権限を持つ人が、部下などが出した案を採用するかどうか決めることです。「裁」には「さばく・決める」という意味があります。
公的な規程では、次のように定められています。
- 独立行政法人国際協力機構(JICA)の文書決裁規程:起案文書の内容を、機構の意思として決定すること
- 京都市の文書管理規程:決定者が決定書案に押印(自署を含む)して、局としての意思を確定すること
- 内閣府の公文書管理委員会の資料:権限を持つ者が押印や署名などで、内容を行政機関の意思として確定させた文書を「決裁文書」と説明
どの定義にも共通するのは、「権限を持つ人」が「組織の意思として確定させる」という2点です。決裁の後で内容を直すときは、修正のための決裁を、もとの決裁者まで改めて受ける必要があるとされています(内閣府の資料)。決裁は、それだけ重い「確定」の手続きです。
関連する言葉:決裁権者・専決・代決
- 決裁権者:その案件を決裁できる人。金額や内容ごとに、規程の表で決められていることが多い
- 専決(せんけつ):本来の決裁権者に代わり、決められた範囲の案件を、下の役職の人がいつも決裁すること(例:10万円未満の購入は課長が専決)
- 代決(だいけつ):決裁権者が出張や休みで不在のとき、代わりの人が一時的に決裁すること
「承認」とは
承認は、出された案・申し出・事実を、よい・正しいと認めることです。決裁と違って「最後の1人」に限らず、途中の上司や関係部署、会議体も承認します。
法律でもよく使われる言葉で、たとえば会社法436条3項は、取締役会を置く会社では、計算書類などについて取締役会の承認を受けなければならないと定めています。この場合の承認は、取締役会という会議体が書類の内容を認める手続きです。
社内のワークフローでは、「申請 → 承認(課長)→ 承認(部長)→ 決裁(役員)」のように、承認が何段階か続いた最後に決裁が来る形がよく見られます。小さな案件では、課長の承認がそのまま決裁になることもあります(前の章の「専決」です)。
例文で見る使い分け
| 場面 | 自然な言い方 | ポイント |
|---|---|---|
| 社長がOKを出して、実行できるようになった | 社長の決裁が下りたので、来月から始めます。 | 最終決定なので「決裁」 |
| 課長がOKを出し、部長に回った | 課長の承認は済みました。今は部長の確認待ちです。 | 途中の段階なので「承認」 |
| 最終判断を上の人にお願いする | 本件について、部長のご決裁を仰ぎたく存じます。 | 「決裁を仰ぐ」は決まった言い方 |
| 経費の申請をシステムで出した | 交通費の申請が上司の承認待ちになっている。 | システムの表示も「承認」が多い |
| 取締役会で書類を認めた | 計算書類は取締役会で承認された。 | 会議体が認めるときは「承認」 |
「決済」との違い(お金の支払い)
同じ「けっさい」と読む「決済」は、代金の支払いやお金のやりとりを済ませることです。「カード決済」「決済日」「電子決済」のように使います。
- 決裁:案を決める(さばく)→ 決裁が下りる・決裁権者
- 決済:お金を済ませる(すます)→ カード決済・決済方法
「けっさいがおりる」は、案が認められたという意味なので「決裁が下りる」と書きます。「決済が下りる」は誤りです。迷ったら、お金なら「済」、OKなら「裁」と覚えておくと取り違えません。
「決裁を回す」の言い換え
「決裁を回す」は、起案した書類を承認者から決裁者へ順に回すことを指す、職場でよく使う言い方です。場面に合わせて、次のように言い換えられます。
- 稟議(りんぎ)を回す:会社で、文書で上の人たちの承認を順にとるときの一般的な言い方
- 決裁に上げる:決裁権者のところへ書類を出す
- 決裁を仰ぐ・ご決裁をお願いする:目上の人に、ていねいに判断をお願いする
- 起案する:決裁を受けるための案を作って出す
確認クイズ:どっちを使う?
Q1. 「来期の予算案は、昨日の役員会で正式に( )された。」
→ 承認。役員会という会議体が案を認める場面なので「承認」が自然です。会社の規程で役員会が最終決定の場とされていれば、その承認が実質的な決定になります。
Q2. 「この発注は金額が大きいので、本部長の( )が必要です。」
→ 決裁。金額によって「誰が最終的に決めるか」が決まっている場面なので「決裁」です。
Q3. 「オンラインショップの( )方法を、クレジットカードとコンビニ払いから選ぶ。」
→ 決済。お金の支払いなので「済」の字を使います。
よくある質問
「承認」と「決裁」、ワークフローの画面ではどちらが正しい?
どちらも誤りではありません。多くのシステムでは、途中の人の操作を「承認」、最後の人の操作を「決裁」または「最終承認」と表示しています。社内の規程でどう呼ぶかが決まっていれば、それに合わせるのが確実です。
「承認」の反対の言葉は?
案を認めないことは「否認」「却下」「差し戻し」などと言います。差し戻しは、書き直してもう一度出すように返すことで、却下は案そのものを退けることです。なお、相手の頼みを受け入れる「承諾」との違いは「承諾」と「承認」の違いで解説しています。
まとめ
- 決裁:権限を持つ人が、案を組織の決定として確定させること。原則として最後の1回
- 承認:案や申し出を、よいと認めること。途中の人も会議体もする
- 決済:お金の支払いを済ませること。「決裁が下りる」と書くのが正しい
- どこまでを承認、どこからを決裁と呼ぶかは、所属先の規程で確認する